和歌山地方裁判所 昭和35年(ワ)385号 判決 1962年2月26日
原告 和歌山信用金庫
事実
後記判決で明かでない、被告の弁済の抗弁中一七〇万円の部分に対する原告の答弁は、つぎのとおりである。
「金一、七〇〇、〇〇〇円の弁済は、昭和三五年六月二一日であつて、本件手形債務のうち、本件連帯保証契約により担保された元本極度額をこえた部分に充当された。したがつて、本件手形債務はなお七、〇〇〇、〇〇〇円以上あり、且つ本件連帯保証契約は根保証であるから、右手形残金のうち金七、〇〇〇、〇〇〇円を本訴で請求するのは正当である。」
理由
証拠によれば、被告の父である訴外由良浅次郎は、かねて訴外会社の経営の実権を掌握し、原告との一切の交渉を行つていたが、昭和二八年九月二四日、あらかじめ被告の委任により被告を代理して、原告との間で原告主張のように、訴外会社が、原告との間の継続的手形取引契約に基づき、原告に対し現在及び将来において負担すべき諸手形債務、及びこれに対する各弁済期から支払済まで、金一〇〇円につき一日金四銭の割合による後記約定の遅延損害金債務につき、右手形金額の合計金七、〇〇〇、〇〇〇円を元本極度額として、これを担保するため、被告所有の土地家屋に対し根抵当権設定契約(以下本件根抵当権設定契約という)をするとともに、本件連帯保証契約をしたことが認められる。
証拠によれば、訴外会社は、昭和三二年七月初頃、原告を受取人として、満期と振出日を白地のまま本件手形一通を振出したので、原告はその振出日を昭和三二年七月一二日、満期を同年八月三〇日とそれぞれ白地を補充して、右手形を満期に支払のため支払場所に呈示したところ、支払を拒絶され、現に原告が右手形の所持人であることが認められる。(省略)したがつて結局原告は、訴外会社に対し、その主張のとおり、本件手形に基づき、その手形金三七、一九〇、一七五円及びこれに対する右手形の満期の翌日である昭和三二年八月三一日から支払済まで、金一〇〇円につき一日金四銭の割合による約定の遅延損害金債権を有したことが認められる。
ところで、本件連帯保証契約に基づく被告の債務は、訴外会社が原告との間の右継続的手形取引契約(以下本件手形取引契約という)に基づき、原告に対し、将来負担すべき増減変更する一団の債務につき、本件手形取引が終了した時期において約定の極度額まで担保する所謂根保証であることは、前記認定のとおりである。そして、本件手形取引の終了の時期について、なんらかの約定がなされたことを認めるに足りる証拠はないが、証拠によれば、本件連帯保証契約と同時になされた本件根抵当権設定契約において、訴外会社が本件手形取引により原告に対し負担した手形金の支払を怠つたときは、本件手形取引の終期が到来し、原告は直ちに根抵当権を実行できる旨の約定がなされたことが認められながら、他に特段の事情のない以上、本件連帯保証契約についてもこれと同様の約定がなされたものと認定される。証拠によれば、訴外会社は、本件手形取引により原告に対し負担した手形金の支払をかねてから怠つており、後記のとおり、被告が原告に金二、五〇〇、〇〇〇円を弁済した昭和三一年三月三一日には、既に本件根抵当権の設定された被告所有の土地につき競売手続が開始されていたことが認められるから、それ以前に本件手形取引の終期が既に到来したものと認められる。証拠によれば、本件手形は、原告が訴外会社に対し、本件手形取引契約により数回にわたり手形貸付をして既に弁済期の到来した既存の手形債務を一括してその総額を手形金額として振出されたものであることが認められるから、訴外会社は、原告に対し、本件手形取引の終期が到来した当時既に弁済期の到来した少なくとも金額七、〇〇〇、〇〇〇円以上の既存の手形債務を有していたものと推認される。そうすると、被告は原告に対し、本件連帯保証契約に基づき、訴外会社の原告に対する前記既存の手形債務及びこれに対する弁済期から支払済まで約定の遅延損害金債務につき、元本極度額七、〇〇〇、〇〇〇円を限度として、その責任を負うに至つたものといわなければならない。
そこで、被告の弁済の抗弁について判断する。
被告が、本件根抵当権の設定されていた被告所有の土地のうち二筆につき、原告と合意の上、その根抵当権設定契約を一部解除してこれを任意売却してその売得金をもつて、原告に対し、二回にわたり金二、五〇〇、〇〇〇円及び金一、七〇〇、〇〇〇円をそれぞれ弁済したことは、当事者間に争がない。証拠によれば、右金二、五〇〇、〇〇〇円の弁済は昭和三一年三月三一日であり、右金一、七〇〇、〇〇〇円の弁済は昭和三五年六月二一日であつて、いずれも本件手形取引の終期が到来し、本件根抵当権実行による競売手続開始決定がなされた後であること、また、右金一、七〇〇、〇〇〇円は、被告がその弁済の際、弁済に充当すべき債務として指定した前記既存の手形債務の元本極度額七、〇〇〇、〇〇〇円の一部に充当されたことが認められる。ところで、原告は、右弁済金二、五〇〇、〇〇〇円は、前記既存の手形債務に対する約定遅延損害金債務に全額充当した旨主張するけれども、これを認めるにたる証拠はない。従つて、右金二、五〇〇、〇〇〇円は、前記既存の手形債務の元本極度額七、〇〇〇、〇〇円の一部に充当されたものと解するのを相当とする。
結局、被告は原告に対し本件連帯保証契約に基づき、前記既存の手形債務元本極度額七、〇〇〇、〇〇〇円から既に弁済された右合計金四、二〇〇、〇〇〇円を差引いた残額二、八〇〇、〇〇〇円、及びこれに対する弁済期の到来した後であることが明らかな昭和三二年八月三一日から支払済まで金一〇〇円につき一日金四銭の割合による約定の遅延損害金を支払うべき義務のあることが明らかである。
以上の理由により、原告の本訴請求は、被告に対し、前記既存の手形債務元本極度額七、〇〇〇、〇〇〇円の残額二、八〇〇、〇〇〇円、及びこれに対する昭和三二年八月三一日から支払済まで、金一〇〇円につき一日金四銭の割合による約定の遅延損害金の支払を求める限度において正当である。